友だちが仕事でフランスとイタリアを巡っている。パリでの写真がSNSにポストされていた。山と盛られた牡蠣や蟹や海老の写真。冬のパリ、街の角々にある食堂では、生の牡蠣を食べさせる。ゴム長靴とゴムエプロンをまとった恰幅のいいおじさんが、店先で鼻歌まじりに牡蠣を剥いている。3月とはいえまだ寒いはずのパリでは、よく太り身の詰まった牡蠣を味わえるにちがいない。
去年の暮れ、別の友だちが仕事でイギリスへいった。ロンドンで催されるイベントに出展したあと、数週間かけて付き合いのあるイギリス各地の旅行代理店に挨拶回りをするというのがミッションだ。日本の旅行代理店で、イギリスからの観光客のコーディネートをしている彼女は、長年電話やメールでやり取りをしてきたが未だ見ぬ仕事のパートナーたちと対面するのを、楽しみにしていた。いわば「ご褒美旅行」の出張だ。日本からのお土産をたくさん携えてイギリスに向かった。
ロンドンでのイベントが終わり、現地の社員から食事に招かれオイスターバーにいった。彼女は牡蠣が駄目だ。しかし「ロンドンの牡蠣は世界一だ」とばかりに笑顔で勧められるのを無下にはできず、いくつか箸をつけた。牡蠣は不味いが楽しい夕食会を終え宿に帰ると、それからが地獄だった。朝まで戻し下し続けた。翌日になっても一向によくならず、苦しみは続く。病院の救急病棟で点滴を受けてもあまり変わらなかった。
仕方なく東京のオフィスに状況を報告した。案の定「挨拶回りはすべてキャンセルし、すぐに戻れ」との指示が返ってくる。泣きながら各地の旅行代理店に詫びのメールを送り、その後はひたすら宿のベッドに突っ伏して、体調がよくなるのを待った。数日後になんとか回復の兆しを見せたので、帰りの飛行機の切符を探したが、手頃なものが見つからない。目が飛び出るくらい高く、香港経由でやたらと時間がかかる便の切符をどうにか手配し、げっそりとやつれたまま帰国した。各地の仲間に渡すつもりだった日本のお土産は、全部ロンドンの宿に置いてきた。「牡蠣なんて二度と食べない」と彼女。そりゃそうだ。
いまパリにいる友だちのお腹の具合はどんなだろう。新しい写真がポストされている。 大きな銀色のポットと白いコーヒーカップ、それと牛乳の写真だ。フランス人は朝にものすごい量のカフェオレを飲む。元気そうでなにより。
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