オールズモビルのカトラス・シエラという車。FF、2,500cc、直4、アメリカ車の特徴をすべて切り捨てたようなアメリカ車だ。80年代、高性能な日本車の人気におされ、アメリカ車は売れず困窮していた。日本車を真似れば人気を取り戻せるのでは、と安直に生産された駄作だった。田舎の中流層にはそこそこ売れたが、ビジネスとしては失敗、その後オールズモビルというブランドは消滅してしまう。
弟に「ファーゴ」という映画を勧められた。彼の推す映画はいつもおもしろい。雪に包まれたアメリカの田舎町、自動車販売店で働く冴えない男が金に困り、偽装誘拐をして身代金をかすめ取ろうとするお話。全編を通してぼやっとした時間が流れ、センセーショナルな殺人が次々に起こるのに、悲壮感や切迫感がまったくない。退屈な夜中にうとうとしながら眺めるのにいい。ちんけな悪党に扮するスティーヴ・ブシェミの存在感がすばらしかった。彼の卑しく下品で狡猾な振る舞いは一級品だ。鞄を雪に埋めるシーンは屈指の名場面だと思う。「デスペラード」で出会って以来彼のファンだが、この作品でさらに好きになった。
弟はブシェミが駆る車に惹かれた。どこのなんという車かわからないので、僕に映画を観て車種名を教えてほしいと頼んだ。その車がカトラス・シエラだった。弟がこの車を欲しくなる気持ちは、とてもよくわかる。どこをどう見てもかっこいい部分がなく野暮ったい。燃費が悪くパワーもない。重く遅い。でも肩の力が抜けていて気負わない感じがいい。ゆったりとシートに背中を預け、田舎道をのんびり走りたい。
残念ながら日本でこの車に乗るのは難しそうだ。この車が作られていた当時、日本はバブルでアメ車ブームだった。多くのマッスルカーやフルサイズセダンが輸入されたが、この手の親父セダンは入ってきていない。アメ車らしからぬアメ車は日本のマニアにも評価されなかったのだ。どうしても欲しければ、アメリカ本国に探しに行って個人輸入し、日本の法規に合わせて調整と整備をしなければならない。乗りはじめた後も部品の確保と故障の対応に追われはずだ。ゆったりのんびりは夢のまた夢、常に眉間にしわを寄せ、神経を尖らせて乗るはめになる。ブシェミを気取るなら、カトラスを輸入するより自分がアメリカの田舎に移住して、適当な中古車に乗る方が手っ取り早そうだ。
ブシェミのことを考えていたらまた「デスペラード」を観たくなった。寝る前にDVDをかけよう。僕は「デスペラード」の冒頭、彼が酒場で語る場面がとても好きだ。
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