キングオブコメディというお笑いコンビがおもしろい。人間離れした風貌の今野と、浪人生のように地味な出で立ちの高橋(パーケン)が演じる、常軌を逸した言動と悲哀に満ちた世界観が好きだ。台詞の言い回しや間合いを覚えるほど、彼らのコントを繰り返して観ている。何年か前に彼らがキングオブコントというコンテストで一番をとったときは、とても気分がよかった。
多くのファンと同じように、僕もはじめは今野の強烈なキャラクターに目が留まって興味を持った。そして見ているうちに高橋(パーケン)の異常性に気づき、彼にどんどん惹かれていった。隔週に配信されるニコニコ動画の番組で、彼の変人ぶりをつぶさに見ることができる。自身の身体的特徴を逆手に取った「色弱ギャグ」や、電車内での痴漢騒動、逮捕、留置、不起訴という希有な経験を踏まえた「冤罪ギャグ」がたまらない。彼の語る日常のハプニングも楽しい。極端に人見知りで凝り性で貧乏性な彼の、独特な視点で切り取られる出来事には、不幸なエピソードがとても多い。普通のひとなら何日も思い悩んでしまいそうな体験が次々に披露されるが、悲壮感がまるでなく軽快な語り口だ。あまりにさらりと話すので、聞いているこちらはフフフと笑ってしまう。彼は映画が好きなようで、端々で話に上がる。彼が話題にする作品は、どれも一般的にはさほど有名ではないように思うが、僕には共感できることが多い。僕は高橋(パーケン)と趣味が似ているみたいだ。
あるとき突然、番組で彼がももクロの話をしはじめた。ももクロのパフォーマンスを目の前で見たら、不思議と涙が溢れ幸福感に満たされたという。これまでアイドルを追いかけるどころか、好きになったことさえないという彼が、これを期に一気にのめり込んだようだ。それからは毎回のように、ライヴにいった話やももクロゆかりの地を巡礼した話を、裏返った声で熱く語る。その入れ込みようたるや凄まじく、去年の暮れに紅白出場が決まったときには、目に涙を貯め、下唇を振るわせ、息を詰まらせながら喜びを訴えていた。僕はももクロをまるで知らないのに、その情熱に圧倒されてついもらい泣きしてしまった。
僕の弟は幼い頃から音楽狂だ。 きっかけはたぶん1987年のマイケル・ジャクソン来日だと思う。横浜スタジアムでコンサートがあり、その模様がテレビ中継された。地元の小学生たちはみんなマイケルに夢中になった。僕と弟も繰り返し録画ビデオを見ながら彼を真似して、摺り足で後ずさりし、股間を握ってポウ!と奇声を上げていた。その後弟はローリング・ストーンズと出会って心酔した。彼が小学4年生のとき、ストーンズがワールドツアーで日本にやってきた。彼は貯めていたお年玉をはたいて切符を買い、お母さんに同伴をおねがいしてコンサートにいった。中学生になるとエレキギターを買って友だちとバンドを組んだ。高校ではラップやレゲエ、ブルースといった黒人のレベル音楽に傾倒した。彼らの叫びや怒りの声を腹の底で理解できるようになりたいと、大学では英語を専攻した。その後さらに生きた英語を身につけたくて、横須賀の米軍基地内に就職した。労働の対価をほとんどレコード購入にあて、ターンテーブルと楽器、レコードに埋もれた倉庫のような部屋で寝起きしていた。ずっと外国の音楽が生活の中心にあった。
今年の冬のある日、弟から電話があった。「明日そっちにいくから泊めてくれない?」彼はいつも突然遊びに来る。この前は飛行機を降り立った那覇空港ではじめて連絡をよこした。それに比べればいくぶんいい。あいにく夜勤だったので泊めてやることはできなかったが、その翌日に会う約束をした。
弟がいたく気に入っている栄町の「あだん」で島酒を飲みながら、最近聴いた音楽や観た映画の話をした。彼とはあまり仕事や日常の話をしたことがない。別に避けているつもりはないのだが、不思議と話題に上がらない。いつも音楽と映画の話ばかりだ。 ひとしきり話したあと、そういえば、と僕は弟に尋ねた。「なんで突然沖縄に来たの?」「こっちでやるライヴのチケットをオークションで安く落とせたから。いま仕事が暇でさ。」と弟。沖縄では、アメリカの有名ミュージシャンが米軍基地の慰問に来たついでに日本人向けにもライヴをする、ということが珍しくない。「誰のライヴ?」と聞くと弟は少し気恥ずかしそうにして答えた。「も、ももクロ…。」
びっくりした。弟はいつも「80年代にアメリカで生まれてマイケル・ジャクソンに熱狂したかった。70年代にジャマイカでボブ・マーリーの怒りを共感したかった。どんなに聴き込んでも、今の日本で彼らの音楽を本当に味わうことはできない。文化や背景が違いすぎる。」と音楽の同時代性について語り、リアリティを感じられないことを嘆いていた。マイケルやボブを深く愛し、とことん追求しているからこそ達した感覚なのだと思う。その弟は今、日本のアイドルに魅せられて、遠く沖縄まで来ている。いったいどういうことか。
外資系レコード店でラップ音楽のバイヤーをしている友だちに「とにかくこのビデオを観ろ。」と強引に勧められたのが、ももクロのライヴ映像だったらしい。これは、と思いすぐにライヴにいった。そのライヴで涙が止まらなくなり、以来何度も足を運んでいるという。曰く「ようやく自分の音楽に出会えた。」らしい。
黒人の音楽は自分の音楽になり得なかった、という理屈はよくわかる。でもその話の延長線上にももクロが出てきて、自分の音楽になった、というがどうもわからない。あまりに毛色が違いすぎる。僕がいうと弟は「うん、それみんなにいわれるよ。でも俺の中では繋がってるんだよね、上手くいえないけど。」と応じた。彼がももクロのどこに魅力を感じているのか、結局よくわからなかった。
ももクロと聞いてニコニコ動画の番組のことを思い出し「キングオブコメディっていうお笑いの…」といいかけるや否や、弟は「ああ、パーケンね。」と即座に返した。ももクロファンの間で彼は有名で、尊敬の的になっているらしい。彼の言動がファンの共感を得ているのだそうだ。
僕の好きなお笑い芸人が愛し、互いに影響を与え合った弟が魅了されているももクロとは、いったい何者なんだ。ちょっと興味が湧いている。でも一度足を踏み入れたらどっぷりと引き込まれてしまいそうで怖くもある。
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