20130608

Ease & Pleasure

 沖縄のラーメンは美味しくない、と本土出身の人は口を揃えていう。都会っ子風を吹かせて沖縄の人たちを悪くいうつもりは毛頭ない。でもラーメンについては僕も多くの本土出身者の意見に賛成だ。一度食べたら二度と味を忘れられないような、美味しい沖縄そば屋はごまんとあるのに、ラーメン屋となると少ない。だから評判のいい店に食べにいっても、がっかりして帰ることが多い。沖縄では油が多くて塩気の強い、パンチの効いたラーメンが人気のようで、そんなラーメンを供する店が繁盛している。僕は食べ物の味についてあれこれと語れるほどの舌を持ち合わせていないので、偉そうなことをいうのははばかられるのだが、どの店もインパクトばかりで味に深みがないように感じる。もう一度食べにいこうと思うにはいたらない。
  家の近所に美味しい店がある。「麺や 和楽」京都ラーメンをうたっている。背油の浮いた醤油スープと細くて真っすぐな麺の組み合わせ。そこに三枚肉を炊いたチャーシューと太めのメンマ、小口切りの九条葱がのる。短く刻んだ韮、おろし大蒜、一味唐辛子を和えたものが薬味として別に出され、好みでどんぶりに足して食べる。見た目はこってりとしていそうだが実に柔らかい口当たりで香りもいい。薄切りのチャーシューがとても美味しいので、僕はいつも「肉中華そば」と「ご飯」を頼む。歳のせいか、最近は家系でラーメン並海苔増しライスを食べきるのに苦しむが、これはしつこくないのでぺろりといける。
 和楽は角刈りで強面だが気の良さそうなご主人と、笑顔で穏やかな物腰の女将さんの二人が切り盛りしている。 厨房ではいつも、耳に心地よい関西弁の会話が明るく交わされていて、カウンター越しにご夫妻と楽しそうに話す常連客も多い。僕は極度の人見知り、内弁慶なので店員さんと気さくに話をすることができない。だからご夫妻の会話をBGMにラーメンを食べるだけで十分だ。むしろ食べ物屋さんで「いつもどうも」とか「お久しぶり」とか「今日はなんにします?」なんて声をかけられると、もうその店にいけなくなってしまう。常連客のように扱われるのが気恥ずかしくてたまらない。無機質に、常に初めて見るように扱われたいのだ。ところが和楽の女将さんは僕に「いつものでいい?」と尋ねてくる。いく度に決まって「肉中華そばとご飯」と注文するのだから、女将さんの問いかけは当然なのだけれど、こちらとしてはやっぱり恥ずかしい。下を向いて小さく「はい」と答えることしかできない。たぶんほかの店だったら僕はとっくに通うのをよしているだろう。でも和楽はこの恥ずかしさを圧してでもまたいきたい。それほど美味しいし店の雰囲気が好きだ。
 何ヶ月か前、和楽の前を車で通りかかったときに、ご主人が店のシャッターを閉めながら携帯電話で話をしているのを見かけた。いつもなら営業しているはずの時間だったので、不思議に思いながら通り過ぎた。それ以降シャッターはずっと閉ざされていて「しばらく休業します」という走り書きの張り紙がしてある。店の前を通る度に様子をうかがうのだが、張り紙が雨風にさらされてだんだんよれていく以外に変化はなかった。ご主人か、女将さんか、体調を崩しているのだろうか。それともなにか別のトラブルか。いずれにしてもとても心配だ。
 先週また店の前を通ったときに張り紙が変わっていた。「6月中旬頃から営業を再開します」よかった、問題は解決したみたいだ。肉中華そばとご飯を食べられる日が待ち遠しい。

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