友だちが沖縄に来て、僕の家に泊まっていた。彼がいる間はなるべく一緒に過ごしたいが、ずっと仕事を休むわけにもいかない。ある晩は夜勤だったので家の合鍵を渡した。近所で適当に夕飯をすませた後は、家でDVDでも観ようかなという彼に、自分の家と思って好きに過ごせばいいと告げて出勤した。
次の日の朝、仕事を終えて戻ると彼は寝ていた。とてもいい天気だ。せっかくの沖縄でこの天気を逃してはかわいそうだと思い、声をかけたが返ってくるのはいびきばかり。真っ赤な顔をした彼は、押しても突いても起きる気配がない。そして猛烈に酒臭い。彼のことは放っておくことにして、シャワーを浴びビールを飲んで僕も寝た。
目覚めると日が暮れていた。彼はまだ寝ている。声をかけたらむくりと起き、しばらくぼんやりしたあとに突然叫んだ。「一日無駄にした!」ようやく状況がわかったらしい。南部の海沿いをドライブしようと思っていたのにと嘆く。聞けば昨晩食事をした帰り道、バーからレゲエが聞こえたので、ちょっと飲もうと店に入ったのだという。そこで見知らぬ酔っぱらいたちと仲良くなり、朝まで一緒に飲み歩いたのだそうだ。旅のいい思い出ができてよかったじゃないと励ましても、彼はドライブ、ドライブとつぶやいて肩を落とす。昼間はとても天気がよかったと伝えると、泣きそうな顔をした。
さておき腹が減ったので、夕飯を食べに出た。腹が満たされると彼の機嫌はいくぶんよくなり、家に戻って酒を飲んだらご機嫌になった。幸せそうな彼は笑顔のまま、僕よりも先に寝た。お前なにしに来たんだよ。
朝起きたら友だちからメールが届いていた。いい耳鼻科を教えてほしいと。 どういうことだ。沖縄が好きで何度も来ている彼女は、この日にまた来るはずだった。僕は仕事の都合がつかず、今回は会えそうにないね、という話をしていた。耳鼻科になんの用があるんだろう。どうしたの?と返信すると、熱があって喉が痛むという回答。羽田にいて、もうすぐ搭乗するところだった。耳鼻科は那覇に着いてから空港の案内所で聞いてはどうか、と送って出勤した。
昼前に心配になって電話をかけた。空港近くの医院で診てもらったら、熱は40℃近くあり、扁桃腺炎と診断されて入院を強く勧められたという。知らないところに入院するのは不安だから、僕の病院に入れてほしいと頼まれた。そばにいた内科医に相談すると、すぐに来させろといってくれた。昼過ぎにやってきた彼女は思った以上に悪かった。頬がこけて目がくぼみ、死人のような顔だ。扁桃腺が大きく腫れて、ライトで照らしても喉の奥が見えない。あと少し腫れたら気道が塞がれて窒息する。血液検査の結果も悪く、いつショックを起こしてもおかしくないという状態。即入院になった。
点滴を受けて翌日には熱が落ち着き、顔色もよくなった。忙しいのに世話を焼かせやがって、となじったら「えー、だってぇー。」と返ってきた。よしよし、いつもの調子だ。その次の日にはもっとよくなり、暇だといってあちこちうろついていた。職場の入院患者と友だちが同じ空間にいる光景は変な感じだ。90過ぎのおじいちゃんと彼女が肩を並べて談話スペースのソファに座り、そろって口を開け、ぼんやり海を眺めているのを、笑わずにはいられなかった。
やがて扁桃腺の腫れが引き、痛みも和らいだ。本当はもっと炎症がよくなってから帰したいんだけど、とぼやきながら、主治医は彼女がもともと予約していた飛行機で帰れるように、早めに退院を許してくれた。かくして友だちは沖縄に来てすぐ入院し、退院してすぐ横浜に帰った。お前なにしに来たんだよ。
友だちが出張で沖縄に来た。帰りの切符の日付を後にずらし、休暇をとって数日こちらで過ごすのだそうだ。出張のあとに遊ばせてくれるなんていい会社じゃないか。仕事が片付いてから帰るまでの間、僕の家に泊めろという。断る理由はない。
夕方に待ち合わせて食事にいくことにした。 教科書通りの沖縄料理は仕事先のひとにご馳走になった、地元のひとが集まる店で食べたい、というので城間の「ピザハウス」にステーキを食べにいった。仕事から解放された彼は終始冗舌だった。食事を終えて家に来てからも酒を飲みながらしゃべり続けた。彼は都心で働くサラリーマン。結婚していて郊外にマンションを買ったばかりだ。その上奥さんはお腹が大きい。僕には想像できないほどの重責を背負って生きているはずだ。日常のストレスをつかの間忘れて、バカンス気分に浸りたいのだろう。高揚している彼がちょっとだけ鬱陶しく、翌朝は仕事なので早く寝たくもあったがおしゃべりにつきあった。
彼はインターネットで検索しながら、この休暇の計画を練りはじめた。美ら海にいきたい、斎場御嶽が魅力、海中道路もいい。ソーキそばが食べたい、タコライスも捨てがたい、A&Wはどうだ。候補ばかりがどんどん増えて、酔っぱらった彼の頭では収拾がつかなくなっていた。丑三つ時を迎えいよいよ眠たい僕は、話を切り上げようとひとつの提案をした。一番いきたい場所、一番やりたいことから順に潰していってはどうか。これは僕が旅行をするときにとる方法だ。旅はなにが起きるかわからない。計画通りに運ばないなんてことはざらだ。やりたいことを旅の後半にとっておくと、達成できないまま旅が終わって悔いが残ることがある。だから最初にピークが訪れるような計画がいい。「あの場所で旅のフィナーレを飾ろう」とか「美味しいものは最後にとっておこう」なんてやり方はよくない。彼はうんうん、なるほどと納得した様子で候補に順番をつけはじめた。ところがこれもなかなか定まらない。彼がおとなしくなるのはまだずいぶん先になりそうだ。僕は安眠をあきらめた。
翌朝僕は彼を起こさないようにそっと身支度をして仕事に出かけた。夕方に帰りしばらくすると彼も戻ってきた。充実した一日を過ごせたようでつやつやとした満面の笑顔だった。きょうは結局どこにいったの?と聞くと彼は元気いっぱいに答えた。「ソープランド!」お前なにしに来たんだよ。
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